お見合い結婚12

ワルパが出店している新宿の伊勢丹は誠一郎の勤務地でもある。4階の若者向けフロアで、メンズファッションブランド『エイト』の販売員をしている。
正社員かと思ったらアルバイトらしい。理由は他にも掛け持ちしているから。空いた時間は新宿2丁目のコンビニエンスストアでレジ打ちのバイトだ。コンビニエンスストアの方は常に人が足りない状態で、連絡すればいつでもシフトに追加してくれるのだとか。
「くああ……。そんじゃ決まりね。あ、夏彦さんラインのアカウントおせーて」
疲れてるのか、誠一郎はあくびまじりに目をごしごしこすり、スマホ片手に操作をはじめる。
夏彦はちょっと固まったのち、
「うん? ライ……ライ、なんだって?」
聞きなれない言葉に噛み噛み、よくわからないとへらりと笑う。
(あ、あれ。なんかまずったか、俺)
言った直後、誠一郎がものすごーく不思議そうな顔で夏彦を見た。
まるで、天然記念物がひょっこり目の前を通りがかったかのように、目を見開いて凝視している。
「夏彦さん、ラインだよライン。まさか知らないわけないよね?」
ラインとは、今や国内全土に普及した無料通話アプリの総称だ。
今時中高年でもやっている。
そんなメジャー級の名前を、夏彦は本当の本当に知らなかったわけだ。